伊根町が町民より寄付を受けた、伊根町伊根浦伝統的建造物群保存地区内に位置する重伝建の民家を改修・増築し、町民の文化振興と多世代交流のための図書館に変えたプロジェクト。2021年に行われた設計プロポーザルで、京都工芸繊維大学木下昌大研究室とキノアーキテクツのチームが1位に選ばれました。
伊根町は、波が穏やかな伊根湾とともに独特の生活文化を育み、今も生活の一部として使われている「伊根の舟屋」で有名な地域です。伊根町の民家は、舟屋と主屋と蔵によって構成されています。改修対象の建物は、海と山の中間に位置する主屋でした。その奥には山裾に並ぶ蔵群があります。観光資源としての舟屋のみならず、主屋と蔵がつくる集落構造、それらと共にある生活像を更新しながら持続させることが、町の本質的な持続可能性に繋がるのではないかと考え、そのエレメントとして蔵に注目しました。
町民の交流の場となる主屋の隣に「本の蔵」をふたつ増築しました。蔵の中で本に囲まれる体験を通して、大切な物が詰まった蔵に入った瞬間の高揚感を、子どもの原体験として記憶に残したいと思ったからです。本の蔵の奥にある既存の蔵と連なり、伊根固有の風景を敷地に引き込み、使われなくなった生活道路を、子どもが通り抜けるにぎやかな里道として再生させています。
この建築が現代の町の人びとを繋ぎ、将来、また新たな解釈により更新され使われ続けることを期待しています。