少子高齢化や核家族化、死生観の変化により、新たな形態の墓地を求めるニーズが高まり、福岡市が平尾霊園内に整備した合葬式墓所。2019年に行われた建築設計プロポーザルにおいて、キノアーキテクツが一等に選ばれました。
さまざまな立場の人が利用する公共墓所であるため、特定の宗教観を現すデザインは避けなければなりません。一方で、お墓はきわめてプライベートな場でもあります。誰もが公平に利用できながら、個々の思い入れを抱ける場所。公共性がありながら、プライベートな場所。特定多数のお墓であり、遺された人々の祈りの場所。これら表裏の関係性を解くために、山の力を借りることにしました。自然がつくり出す多様な景色や変化のなかに、各々が個人的なシーンを見出せれば、それが故人とつながる記憶に変わると考えたからです。
かつて、平尾霊園を造成するために山々が削られました。今回の合葬式墓所の建設にあたり、その緑を修復するように山裾をのばし、その下に埋蔵室を埋めています。故人は山々に抱かれながら眠り、訪れた人々は山裾に設けた献花台に花を手向けます。その献花台を円弧状の休憩所が囲み、故人を偲ぶための非日常の場になります。
円弧状の壁の外側には、地域の住民が日常的に利用する公園広場があり、樹々が生い茂ります。その広場から見えるのは山の緑のみで献花台は映りません。故人は山に抱かれて眠り、残された人は山を前に故人を想い、故人に見守られながら山の広場で過ごすことになります。
公共の墓所として、特定の宗教をイメージさせることなく、すべての人が故人に思いを馳せる場所ができたと思っています。